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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)9859号 判決

原告

大内敏光

原告

ブリヂストンタイヤ東京販売株式会社

右両名代理人

吉永多賀誠

被告

名糖運輸株式会社

右代理人

三善勝哉

被告

江口鉄蔵

右代理人

中村信敏

中村尚彦

主文

被告らは各自、原告大内敏光に対し七七万八〇八〇円、原告ブリヂストンタイヤ東京販売株式会社に対し、一九万三〇〇〇円およびこれらに対する昭和四四年九月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告大内敏光の請求にかかる分の三分の一を同原告の、原告ブリヂストンタイヤ東京販売株式会社の請求にかかる分の五分の四を同原告の、その余を被告らの各負担とする。

この判決第一、第三項は仮執行することができる。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  原告ら「被告らは各自、原告大内に対し一五六万一三〇〇円、原告ブリヂストンタイヤ東京販売株式会社(以下原告ブリヂストン社、または原告社という)に対し一四六万九八〇〇円およびこれらに対する昭和四四年九月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決および仮執行宣言。

二  被告ら「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決。

第二  原告らの主張

(請求原因)

一  事故

(一) 昭和四三年八月一〇日午前一〇時五〇分頃、

(二) 青梅街道(杉並区上井草四丁目歩道橋の田無寄り)

(三) 当事車両

1 大型貨物自動車 足立一う一三六七 運転者・江口英雄 運行供用者・被告江口、以下江口車という。

2 普通貨物自動車 多摩四け八七八 運転者・梅野渉 運行供用者・被告名糖運輸株式会社(以下被告名糖という。)以下名糖車という。

3 普通貨物自動車 練馬四も一七二二 運転者・原告大内 以下原告車という。

(四) 態様

1 前記道路において原告車は田無方面から新宿方面へ向け、江口車もその後方を同方向に、名糖車はそれと反対方向に、各進行していた。

2 名糖車は雨のため濡れた道路で、ハンドル制御力を失いスリップし二、三回旋回して、センターラインを越え(すなわち原告車の進行車線に出て)、歩道橋の田無寄り約二〇メートルの地点で、車首をセンターラインの方へ向けて、停止した。

3 原告車は、名糖車が右のように旋回しているのを認めて制動を講じ、名糖車の直近に停止し、ようやく衝突を避けた。

4 原告車の右停止直後に、江口車が原告車の後方から進行してきて原告車の左後部に衝突した。

二  傷害

本件事故により、原告大内は、むちうち傷害および腰部挫傷を負つた。すなわち、事故の際、一時意識を失い、三谷外科(杉並区上井草四丁目)で手当を受けて帰宅したが、翌一一日首と腰が利かなくなり、代々木赤心堂病院(渋谷区代々木三丁目)に赴き診察を求め、前記のとおり診断され、昭和四三年八月一二日から同年九月八日まで同病院に入院し、翌九日から同月三〇日まで同院に通院し、さらに、同年一〇月二一日以降現在まで東京慈恵会医科大学附属病院(以下慈大病院という。)へ通院して治療しているが、まだ回復にはいたらぬ有様で、昭和四四年一月一〇日職場に復帰したものの、疲労しやすく天気不良の日には鈍痛を覚え、まだ本格的な業務には従事し得ない。

三  損害(原告大内分)

本件受傷により同原告は次の通り損害を蒙つた。

(一) 治療費

1 三谷外科 四三五〇円

2(1)代々木赤心堂病院(八月一一日分) 一五〇〇円

(2)同(入院分)

一五万一七六〇円

(3)同(退院後の分)

二万三〇五〇円

3 慈大病院(昭和四四年三月一四日まで)

一〇万六五五〇円

(二) 入院中の諸経費

1 看護料(八月二七日から九月八日まで)

二万一七八〇円

2 氷代 一四〇〇円

3 栄養食費(五回)三三八〇円

4 清拭料 六三〇円

5 雑品購入費 七八〇円

6 担当医師、看護婦謝礼

一万円

(三) コルセット代 七五〇〇円

(四) 交通費(自動車料金)

九万二五四〇円

内訳

代々木赤心堂病院分

昭和四三年八月一三日・三六〇円、同月一四日・六四〇円、同月一六日・六六〇円、同月一八日〜同年九月七日(実一〇日)、同月九日・各六四〇円、同月一〇日・一三二〇円(警察とも)、同月一一日〜同月三〇日(実一五日)・各六四〇円

慈大病院分

昭和四三年一〇月二一日・一二六〇円、同月二二日・一三六〇円、同月二八日、三一日、同年一一月四日〜二五日(実一一日)・以上各一二四〇円、同月二六日〜三〇日(実五日)、同年一二月中(実二四日)、昭和四四年一月中(実八日)、同年二月中(実四日)、同年三月七日、一四日・以上各一二六〇円

(五) 逸失利益 一三万六〇八〇円

原告大内は、原告ブリヂストン社の社員であつて、本件事故当時、原告社から毎月平均一万一三四〇円の時間外手当を得ていたところ、本件事故後時間外勤務ができなくなつた。昭和四三年八月一〇日から昭和四四年八月九日までの間、本件事故がなく時間外勤務をしていれば得られたはずの右手当の総計は右のとおりである。

(六) 慰藉料 一〇〇万円

原告大内は、事故当時二四才で、昭和四一年大学を卒業して原告ブリヂストン社に入社し、健康で業務に精励していたところ、本件事故により傷害を受け、前記二のとおり精神的に重大な苦痛を感じている。

四  損害(原告ブリヂストン社分)

(一) 原告ブリヂストン社は、その従業員である原告が右事故により全く稼働できないにも拘らず、昭和四三年八月一〇日から昭和四四年一月九日までの五カ月間、毎月三万八六〇〇円(本俸三万〇一〇〇円、住宅手当三五〇〇円、精勤手当三五〇〇円、通勤手当一五〇〇円)の賃金(計一九万三〇〇〇円)を原告大内に支払つたから、本件事故により右給与額相当の損害を受けた。

(二) 原告大内は原告ブリヂストン社の社員として、本件事故当時一ケ月当り一八二万四〇〇〇円(昭和四三年二月〜七月の平均)の売上をしており、右売上額に対する原告ブリヂストン社の粗利益は一四%であるから、月額二五万五三六〇円となるところ、原告大内の昭和四三年八月一〇日から同四四年一月九日までの欠勤によつて、その五ケ月分に相当する一二七万六八〇〇円の利益を失つた。

五  結論

よつて被告らに対し各自原告大内は一五六万一三〇〇円原告ブリヂストン社は一四六万九八〇〇円およびこれらに対する訴状送達の日の翌日である昭和四四年九月二七日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告江口の抗弁に対して)

六 第四の三の事実のうち、2の事実は認め、1、3の事実は否認する。

江口車運転者は、前方注視を怠り、同車を高速で走行させてきたため、名糖車が旋回し原告車の進路に入つてきたのに気付かず、速度を落さないまま、停止している原告車に追突したものであつて、同運転車の過失は否定できない。また、江口車にはブレーキに故障があつた。

第三  被告名糖の主張(答弁)

一  請求原因一の事実は認める。

二  同二以下の事実は争う。

第四  被告江口の主張

(答弁)

一  請求原因一(一)〜(三)の事実は認める。

同(四)1、2の事実は認める。

同3のうち、原告車がその制動により、名糖車直近に停止したことは否認する。

同4のうち、江口車が原告車の後方から進行してきて原告車の左後部に衝突したことは認め、右衝突が原告車の停止後であることは否認する。

二  同二以下の事実は争う。

(抗弁)

三1 江口車は、原告車の左後方を時速三〇キロメートル(制限時速五〇キロメートル)で進行中、前掲歩道橋手前四五メートルの地点で名糖車が右歩道橋の向う側で不自然な走行をはじめたのを認め、危険を感じ直ちに急ブレーキをかけた。その際、原告車がハンドルを左に切つて江口車の進路に突然入つてきたため衝突した。

2 したがつて、本件事故はもつぱら、名糖車が雨でハンドルをとられ対向車線に進入したことに起因するものでその運転者梅野の過失によるものである。江口車の運転者は十分な事故防止の手段を講じたもので、同人にとつては不可抗力である。

3 また、江口車には当時ブレーキ不良等構造上の欠陥、機能の障害もなかつた。

第四  証拠〈略〉

理由

第一、事故の態様と被告らの責任

一、被告名糖に対する請求について

請求原因一の事実は争がないから、名糖車の運行によつて本件事故が発生したものというべきであつて、同車の運行供用者である同被告は、自賠法三条本文により、本件事故による損害(人損に限る。以下同じ)を賠償する責任がある。

二、被告江口に対する請求について

1  請求原因一の(一)〜(三)及び同(四)の1、2の各事実並びに原告車の左後部に江口車が後方から進行してきて衝突したことは争がない。

したがつて、江口車の運行により本件事故が発生したものであり、同車の運行供用者である同被告は、後記2のとおり自賠法三条但書に該当しないので、同条本文により本件事故による損害を賠償する責任がある。

2(免責の抗弁について)

本件事故につき、名糖車運転者に過失のあつたことは争がない。

しかし、江口車運転者に過失のなかつたこと及び同車のブレーキに故障がなかつたことについては、いずれもその証明がなく、これらの点と本件事故発生との関連は否定できないことは次に説くとおりである。

すなわち、前記1の争のない事実、〈証拠〉によれば、本件事故現場の附近道路は、見通しのよいほぼ直線の道路であつて、車道幅員が約一七メートルで、センターラインの表示があること、原告車は名糖車がセンターライン附近で旋回するのを認めて、ブレーキを用いて減速したうえ、急制動を講じて名糖車の直近において停止したところ、江口車が右停止直後に原告車に衝突したことが認められる。

江口車の事故直前の走行状態についてはこれを明らかにするに足る証拠はない(江口証言のとおりであるとは到底考えられない。)

けれども、前掲乙第二号証(江口運転車両の状況=ブレーキ不良との記載)、証人石野、同石井の各証言に徴し、同車が事故当時ブレーキ不良であつたことを疑うことができる。

さらに、前記争のない事実及び認定した事実に基いて考えると、事故現場の道路の状況に照らし、同車運転者は前方注視を十分にしていれば、現場にさしかかるかなり前に名糖車の不自然な走行状態を認め、同車が新宿方面向け車線に進入することを予見できたはずである。また、これを予見した場合、自動車運転者としては、自車がそのまま進行すれば同車との接触等の危険が発生することを慮り、遅滞なく減速、停止等の措置をとるべきものである。それと同時に、先行する原告車が名糖車との接触の危険を避けるため、突然急制動、進路変更等をすることも予想し、原告車との接触の危険を避けるためにも右措置が必要である。このように考えた場合、もし、江口車にブレーキの故障がなく、適切な速度で進行していて、同車運転者が前方注視を怠らず、しかも、名糖車の異常走行を認識して遅滞なく停止減速措置をとつていたとすれば、原告車が前記の程度の制動操作により名糖車との接触前に停止できた事実から推して、その後方を走つていた江口車もまた名糖車や原告車の停止した地点に至るまでに停止して原告車との接触に至らなかつたといわなければならない。

してみると、江口車にブレーキの故障があつたか、同車運転者に前方不注視あるいは名糖車発見後の事故避止義務を怠ること等の過失があつたかの疑いは解消できず、そのうち一ないし二以上があつてそれが本件事故の原因となつたことはにわかに否定できないことになる。

したがつて、江口車については、自賠法三条但書の証明がない。

第二、原告大内の受傷及び治療経過

〈証拠〉によれば、原告大内は、本件事故によりその主張のような傷害を受けたこと、その治療のためその主張の期間、その主張の医療機関に入通院したこと(但し、入院した日は昭和四三年八月一三日、慈大病院への通院は昭和四四年三月一四日までで、以後は不詳である。なお、通院実日数は代々木赤心堂病院=一八位、慈大病院=六〇弱である。)、その病状の推移が概ね原告ら主張のとおりであることが認められる。

第三、原告大内の損害

一、治療費等 二八万七二一〇円

〈証拠〉により、原告大内は、右治療のため、治療費等として前掲医療機関に請求原因三(一)の支払を要したことが認められる。

請求原因三(一)1につき、同2(1)につき、同(2)につき、同(3)につき、同3につき〈各証拠略〉

二、入院中の諸経費

(一)  付添看護料 二万一七八〇円

〈証拠〉によれば、原告大内は右入院期間中安静を要し医師の指示で職業看護者の附添を受け、その料金及び附随費用として右金員の支出を要したことが認められる。

(二)  諸雑費 七四三〇円

〈証拠〉によれば、原告大内は右入院中、請求原因三(二)2〜6のような支出をしたことが認められるところ、入院期間等に鑑み、うち右金額を本件事故と相当因果関係のある支出と認めるのを相当とする。

三、コルセット代 七五〇〇円

〈証拠〉により、右治療の必要上右金額の支出を要したことが認められる。

四、入通院の交通費 八万四一六〇円

〈証拠〉によつて、原告大内は前記入退院及び通院に概ねタクシーの利用を要する病状であつて、右目的等のため、タクシー料金八万四八四〇円(請求原因三(四)のうち八月一四日から九月七日までの分を除いた額)を支出したことが認められるところ、通院回数に照らし、うち八万四一六〇円を本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのを相当とする。

五、時間外手当の喪失 一二万円

〈証拠〉によれば、原告大内は、原告ブリヂストン社の従業員であつて、本件事故前販売課に属するセールスマンとして毎月相当時間の時間外勤務をして、時間外手当として月平均一万円程度を原告社から受けていたこと、事故後欠勤したのち昭和四四年一月一〇日復職したものの従前の仕事に堪えられず、倉庫担当に廻され、事故後一年間は時間外手当を得ていないことが認められる。ところで、右事実からすれば、原告大内は本件事故にあわなければ右の一年間に時間外手当として平均月額一万円を得られるとみるべきであるから、右手当相当額は本件事故による損害である。

六、慰藉料 二五万円

前記第二、第三の五の各事実等諸般の事情を考慮すれば、原告大内の本件事故による傷害に対する慰藉料は、右金額を相当とする。

第四、原告ブリヂストン社の損害

一、原告大内の給与支払

〈証拠〉によれば、原告大内は本件事故後昭和四四年一月九日に至るまで五ケ月間勤務先である原告ブリヂストン社に出勤せず就労しなかつたこと、原告社は就業規則に基いて原告大内の不就労に拘らず右期間の基準内賃金月額三万八六〇〇円(内訳は請求原因四(一)のとおり)すなわち合計一九万三〇〇〇円を同原告に支払つたことが認められる。そして、前記第二に述べた同原告の傷害の程度、推移及び治療の経過からみて、同原告は右期間本件事故による受傷のため就労不能の状態にあつたとみられる。

この場合、本件事故の直接被害者である原告大内が受傷により右期間就労不能となつたのであるから、右期間の賃金に相当する損害を同原告が蒙つたところ、右賃金が雇傭主である原告ブリヂストン社から支払われることにより原告大内の損害は填補されると同時にこれに相当する加害者に対する賠償請求権が肩代りした原告社に移転するもの、したがつて、原告社には直接被害者自身の損害と重なり合う範囲において、賠償請求権が認められると解するのが相当である。

よつて、原告ブリヂストン社は被告らに対し右賃金相当額の損害賠償を請求する権利がある。

二、売上減による利益喪失について

原告ブリヂストン社は、その従業員である原告大内の本件事故による受傷の結果、同原告が事故にあわずに就労した場合に得られたはずの原告社の利益の喪失を原告社の損害として被告らにその賠償を請求するのであるが、この請求はこれを認めることができない。その理由は次のとおりである。

本件事故による直接の被害は、原告大内の身体に蒙つた傷害である。

民法七〇九条は、故意、過失に因る他人の権利(あるいは法的保護に値いする利益といつてもよい。)を侵害した場合に加害者に損害賠償の責任があると定めており、本来その権利主体は侵害された権利の保持者(直接被害者)に限られるべきものである。自賠法三条に定める賠償は、受傷者本人等直接被害者本人(ここでは近親者については論じない。)の保護を目的とすることが明らかであり、民法七〇九条の場合に比し賠償権利主体を拡げるべきいわれはない。

右のように解することは、民法の沿革、字義に合致するのであるが、このように、間接被害者の請求権を原則として否定し、例外的に前記一のような肩代りの場合などに限つて肯定する場合実質的に不当な結果を招くとは考えられない。すなわち、現在のように複雑化した社会機構の下では、一個人の死傷はそれに関連のある人や企業、国家その他の存在に影響を与えることがすくなくないのであるが、このような事故による損失波及の連鎖の一部を相当因果関係の尺度で把え、不法行為法上の保護を与えるのは法的安定性の見地からみて妥当を欠くところである。そして、企業の場合に限つていえば、その構成員に生ずべき事故を考慮したうえ、それにかかわりなく、その維持を図ることが要請されるし、また可能でもあるというべきである。法的には使用者の従業員に対する就労請求権は、その給付内容の特性に鑑み、種々の場合、使用者側に属する事情の有無にかかわらず、そのまま実現することが期待できない性質の権利であつて、その不履行に対しても、将来に向つて雇傭関係を継続するか否かは格別として、それ自体では、不就労期間に対応する賃金の支払を免れるに過ぎないのを原則とする。労働者の傷病による不就労は通常企業にすくなからぬ利益の喪失をもたらすのであるが、その損失を労働者に賠償させることはもともと法の予期しないところである。むしろ、現実には、企業によつては、傷病の原因如何に拘らず、労働者の就労不能の間の賃金を支払うものと定めている場合もすくなくない。第三者の過失による従業員の死傷の場合にこれと全く異つた立場から考えることはできない。要するに、企業は、その従業員の不時の不就労を予想し、その制約を甘受しながらその労働力の給付を受けているというべきである。

あるいは、従業員の傷害につき、債権(受傷者に対する雇傭契約に基く労務給付請求権)の侵害とみる立場もあろう。もとより、当該企業に損害を与える目的でその従業員を死傷させた場合は、当該企業に対する関係で不法行為(債権侵害)が成立することはいうまでもない。けれども、第三者が過失により従業員を死傷させた場合には、債権侵害の法理により使用者を保護することはできない。すなわち、保護法益である債権の面からいえば、前段に記したとおりの制約のある権利である一方、侵害の態様の面からいえば、債権の相対性に鑑み不法行為である債権侵害が成立する要件である侵害行為が特に強い違法性を有する場合に該当しないからである。

よつて、原告ブリヂストン社の右請求は、事実関係につき解明するまでもなく理由がない。

第五、以上のとおりであるから、原告らの本訴請求は、被告らに対し各自、原告大内は第三の一〜六の合計七七万八〇八〇円、原告ブリヂストン社は第四の一の一九万三〇〇〇円およびこれらに対する訴状送達の翌日であることが本件記録上明らかな昭和四四年九月二七日から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(高山晨)

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